しらすを食べに行って、しらすを拾った日


GW にどこにも行かなかったので、江の島に行く事にしました。
生しらす丼、蛸せんべい、土産物屋と神社を楽しみに家を出発。
空は薄暗く天気はイマイチで、涼しくていい感じ。
歩くのにはありがたいのですが、雨が降るのは時間の問題でした。

折り畳み傘を持って家を出て歩くと、前方に動く毛玉を発見。
前脚より後脚が先に出てしまう、独特の走り方には見覚えがあります。

子猫だ!

うきうきして近付くと、子猫もこちらに駆け寄ってきました。
灰色がかった縞模様と白い毛のその子は、私の手にすり寄ると、みすたんの足にもすりすりします。
なんてかわいいんだ。
子猫を撫でながら、これは飼い猫だろうなと察します。
いかに子猫であろうとも、野良猫には生き抜くための警戒心が備わっています。
子供の頃、実家の野良猫の子猫を抱っこしようとして齧られたことがあるので、よく分かります。
驚いた子猫は指に噛みつき、私の爪はU字型に陥没しました。
めちゃくちゃ痛かったのですが、それほど恐い思いをしたのかと申し訳なく思ったものです。
なので、警戒心の欠片もないこの子が野良猫だとは思えません。
見た感じ生後2・3ヶ月くらいなので、親猫も近くにいるのでしょう。

片眼が何らかの炎症であまり開いていないのと鼻声が気になりましたが、久しぶりの生しらす丼もそろそろ気になる時間。
追いかけてくる子猫が迷子にならないように、隙をついて立ち去りました。
もちろん、携帯のカメラで写真とムービーを撮った後で。



江の島に着く前から雨が降り出したので、傘を差しながらウロウロ。
生しらす丼は食べる事が出来ましたが、蛸せんべいは行列が長すぎたので諦めました。
その頃には雨脚もだいぶ強くなってきたので、帰宅することに。
最寄駅から家の近くまでバスに乗って帰ろうかと話していたのですが、駅前で買い物をしていたらすっかり忘れてしまい、そのまま徒歩。
家路の半分も進まない内に、顔以外はびしょ濡れです。
「バスに乗ればよかったかな?」と思いながら歩いていると、行きに子猫を見た辺りに到着。

私の少し先を歩いていたみすたんは、変わらず黙々と進んで行きます。
道の上に、子猫の姿はありません。
ちゃんと親猫の所に帰ったのだろうと思うのですが、なんとなく気になって道路脇の植木と草むらの方に目を向けました。

なにか、ある…

それは、黒茶色の拳ほどの大きさの丸い塊でした。
猫じゃらしの横にある「それ」に、声を掛けてみました。
すると、それまで丸い塊だったそれは顔を上げ、私の足に駆け寄って必死に鳴き続けます。
間違いなく、行きに見た子猫です。

立ち止まる私と鳴き続ける子猫に気付いたみすたんが、戻ってきました。
脱走したか散歩していて迷子になったのでしょうか?
親猫が見つけられない所に来たのか、あるいは捨てられたのかもしれません。
植木の下なら少しは雨をしのげるのに、草の横にいるあたりにこの子のサバイバル能力の低さが窺えます。
少なくとも、私達が見た頃から飲食はできていないでしょう。
風邪をひいているのは一目瞭然だし、雨ざらしだったせいでびしょ濡れのゴミまみれで震えています。
子猫が飲まず食わずでびしょ濡れで、雨の夜を過ごせるとは思えません。
しばらく考えたものの、死ぬと分かっているのを放っておけず、家に連れて帰りました。



まずは、保温だ。 
びしょ濡れでゴミまみれ、鼻水まみれの子猫を洗面器に入れ、ぬるま湯で洗ってドライヤー。
冷たい体をタオルにくるみ、抱っこして温めます。
無駄に高い私の体温が、役に立つ時が来たのです。
しばらく抱いていると震えが治まってきて、冷たかった体も少しずつ熱を取り戻し始めました。

次は、ごはんだ。
とはいえ、うちに猫の食べられるようなものはありません。
しかたないので、ぬるま湯。
口元にぬるま湯を付けると、子猫は一生懸命飲み始めました。
食欲があるうちは大丈夫でしょう。

さて、どうする。
保健所に連れて行くくらいなら、そもそも連れ帰りません。
親類や友人を当たってみましたが、そう都合よく飼える人は見つかりません。
里親を探そうか…?
どちらにしても、今夜はうちにお泊まりするしかなさそうです。
子猫はくしゃみをする度、鼻水を私の服に飛ばしています。
休日の夕方でしたが、近くに診察している動物病院があったので、電話で相談です。
すると、預かることはできないが、診察はできますとのこと。
みすたんと急いで病院に向かいました。



先生によれば、生後2ヶ月くらいの雄猫。
結膜炎に鼻水とくしゃみもあり、ネコのFVR症というウィルス疾患と診断。
特に結膜炎は酷くて、眼を開いていても瞳孔部分以外は腫れあがった結膜で隠れていました。
今の程度ならなんとかなると思うが、もう少し酷ければ眼球と結膜が癒着してしまうのだそうです。

薬をもらって帰る頃には、すっかり夜です。
先生は「無理はしないでいい、里親を探すなら病院にチラシを貼ってもいい」と言ってくれました。
しかし、もう愛着が湧いてしまっている。
うちは一軒家、私は猫好き。
「これも、縁だよ」とみすたんも言ってくれるので、飼うことに。

猫の食べ物を買いにコンビニに向かいながら、名前を考えます。
江の島に生しらす丼を食べに行った日に拾ったんだから、「しらす」でいいだろうということに。
猫なのに魚の名前ですが、いいんです。
実家ではシャムの血を引いたスカイブルーの瞳の野良猫、「ポチ」がいたくらいです。
みすたん、納得。

ふと、いただいた診察記録をみると、そこには衝撃の言葉が。
「毛色・さば」

「さば」って!

確かに縞模様の部分は鯖っぽいけど、そんな呼び名?
「さば」って、色なの?
実家でもこの模様の猫はよく見かけたけど、まさかそんな素敵な名前だったとは!
ああ、もう少し早くこれを見ていたら、お前の名前は「さば」だったのに…
しかし、もっと驚くべきことが記載されていました。

「生年月日・2009年3月1日」

なんと、誕生日を適当に決められてしまいました。

猫缶を食べるしらす

猫缶を平らげるしらすを横目に、しらすの仮住まいの用意です。

幸い、うちはダンボール箱が豊富です。
新聞紙をちぎったものをダンボールに敷き詰めます。
「でも、どうやってここにしてもらうの?」とみすたん。
「この大きさなら親猫が舐めなくても自分で排泄できるから、そわそわしたり床を掻くようならダンボールに入れて」
それから、みすたんは子猫が動く度に気にしています。

しばらくして、子猫は立ち止まると床をかりかりと前足で掻き出しました。
「今だ!」
殆ど放りこむようにして、子猫をダンボール箱に入れます。
熱い視線が気になるのか子猫は箱の中をうろうろしていましたが、前足で新聞紙を掻くと、トイレの姿勢に。
真剣な表情で用を足すと、くんくんと臭いを嗅ぎ、新聞紙をかけました。
猫って、偉いなあ。

夜は放しておくと、隙間に挟まったり変なものを食べたりするだろうと思い、ダンボール箱に入れることに。
心配なので寝室に連れて行き、脱走しない程度に箱を閉じてテープを貼ります。
すると、本日最高の声量と頻度でギャーギャー鳴いて、箱の中を暴れ回ります。

「元気だね」
「さみしいんじゃない?」

しかし、箱から出して踏みつぶすわけにはいかないので、可哀そうだが様子を見ます。
ギャーギャーと、声はなかなか治まりません。
この子はダンボール箱に詰めて捨てられたのでしょうか?
かまってほしいというレベルの鳴き方ではありませんでした。
10分ほど鳴き続けると、ぴたりと声が止みました。

突然のことに、生存確認のためにみすたんが箱に耳を近付けます。
「寝たみたい」
寝息に、ほっと一安心。
しかし、毎日これではこちらがもちません。

明日の予定が決まりました。
しらすの家づくりです。

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